とある魔術の禁書目録(インデックス)1-6巻

調べてみたら12巻まで発売してるんですね。まだちょうど折り返し地点か…。
魔術とか超能力とかに関する難しい解説をぐだぐだくだぐだ書き綴ってあって、これは絶対アニメとかドラマCDにできないだろうなあというような。けども物語はいたって単純なヒーローアクションモノ。アタマのネジがダース単位で抜けている、存在自体が反則の主人公が、暴走上等のハイパーキチガイテンションで、自分が勝手に引き寄せ首を突っ込む不幸や災難、ヒロインのピンチを、矛盾糞食らえの到底ありえない大どんでん返しでぶっちぎり、大逆転していく。がっちがちにSF武装された幸せな童話は、あまりに馬鹿馬鹿しすぎていて、いっそ爽快で、妙に惹き込まれてしまいます。それはどこか、とても難しい理屈で表現されている哲学書が、読んでみると、とてもあたたかい、シンプルだけど素敵なメッセージを伝えようとしていることに気づかされたときのような。回りくどい嬉しみに心躍るような感じ。
特にたまらないのは、熟語や文節に振られているルビです。さまざまな用法が試みられていて、短縮されてわかりやすくなっていたり、「要するに」の部分を当てはめたり、俗っぽい表現が当てられたりと。この作品の物語を理解するためには、原文とルビの意味的関係とそれが暗に意味しているところを読み解かなくちゃならないというところが、奇妙な暗号解読作業みたいで、わくわくします。6巻でいえば、「居場所」と書いて「げんそう」と読ませるところなど、読者にその意味の深い部分を考えさせることが、考えずにはいられなくすることが、そのままクライマックスになっていたりするずる賢さ。アドベンチャーゲームの醍醐味をケーキに乗った生クリームみたいにひょいっとすくい取って舐めたような。本当たまりません。
通常の文庫スタイル、一般的な規定容量を、反則すれすれの作法でオーバードライブするその巧妙な文章形式は、2次元の線上を脈打っている表現を、擬似的に3次元(例えば波のように)に"もちあげる"ようなもの。辞書的な意味を封ずる言葉があって、その連なりによってオリジナルを創造する物語があって、その両者とルビが結びつくことで、いわば表現領域を立体化させているんですね。それは、まるでテキストとは思えない演出性を帯び、迫真の映像作品でも視聴しているかのような気分を読者に与え、そうすることによって、難解なオカルト・サイエンスフィクションをナルシスティックな教養人が相手構わずひけらかすかのようなていたらくを、あまり深く考えず、例えば難解な絵画のように象徴的に認識していく態度として、読者に化学反応を引き起こさせます。
いったいルビとは何か。それは言ってみれば、既存の言語を独自の意味体系・流儀に基づいて再構成・定義することを許される権威であって、それをこの作品の著者は常識外の"がめつさ"で食らいつき、行間とも異なる原稿用紙上の"マス目"としてでっちあげ、1つの次元としてしれっとぼったくっている。ルビそれ自体がもうとっくに物語を自惚れているんですね。
主人公の右手<幻想殺し>がまず何を殺そうとしているかといえば、その所業を「異なる」と考える既成概念。正直、この「とある魔術の禁書目録」を読んだ後に普通の小説を読むと、妙に素っ気なく感じられてしまう。本来であれば素っ気なく感じられる以前読者の想像が積極的に働くものなのに、そういった読解(心理)作用を無効・弱体化させてしまっている。それはまったく僕らにとっても大した<幻想殺し>であるし、つくづく「とある魔術の禁書目録」という作品自体が、主人公に勝るとも劣らず反則だとしか言いようがありませんよね。