心荒んだ彼の行く先には


 「いい眺めですなァ」
   「コリャ堪りませんね社長」

 「Oh!このすっきりとしていて芳醇なふくらはぎ!!くぅぅぅ、絶っ品っっ!」
   「グラム1萬Gでっっ!!」

 暗闇の中でいっそう深く澄んだ黒色の修道着を身に纏った、清らかで優しげな彼女の面差しを見上げるゆづきの心の底に、不条理にも真黒い欲望が澱みはじめているのを、彼はまだ自覚していなかった。

 風車の前でアリサと向かい合うゆづきの手には、黒光りした鎌が握られ、それは小刻みに震えていた。目を異様に充血させた彼は、唐突に、無邪気に微笑むアリサの手を取り、引きずるようにして小屋の中に入っていった。
 「きゃっ!お、ゆづきお兄さん、ど、どうしたの?」
 小麦粉を巻き上げながら彼女は、小屋に積み上げられている藁の上に投げ倒された。その拍子に頭を覆っていたフードがはずれ、彼女の黄金色をした短い髪が、舞い上がる粉風になびいた。
 こぶしほどもないアリサの細い肩は、恐ろしく強い力でゆづきに押さえられ、身動きは取れない。
 「ひゃっ!」
 アリサはかすかに怯えた声色を上げたが、そのか弱い音は、風車の回る音と、杵を突く音によって儚くも打ち消されていた。
 ゆづきの顔は醜く歪み、脂っぽい汗が小窓から注ぐ陽光によって鈍く光っていた。彼は、肩を掴んでいた手をアリサの首元に移し、瞬間的に力を込めると、胸元をお行儀良く結ぶ衣服の襟をボタンごと引き千切った。
 「なっ!!何をするのっ?」
 いまだに状況が飲み込めない無知なアリサは、はだけた胸元にちらっと目をやって、ゆづきを至近距離で見つめた。まるで自分に食らいつこうとでもする野獣かなにかのような、彼の醸し出す気味の悪いオーラに、アリサの全身が得体の知れない恐怖に竦んだ。
 思わず唾を飲み込んだ彼女は、恐ろしさのあまり視野狭窄となった眼をゆづきに据えたまま、かろうじて動く両手を駆使して背後へと身じろいだ。
 だが彼女の動きをけん制するかのように、ゆづきの右手にもっていた鎌が、アリサの顔に刃先を向けてゆっくりと動き出した。
 「っ!!」
 アリサは息を呑んだ。すると赤錆と麦の穂がこびりついた鎌は、無理やりに開き広げられたアリサの服の胸元に挿し込まれ、肌に触れる冷え切ったカマの感触が、彼女に形ある恐怖をもたらした。
 「フンっ!」
 いやらしく濡れた唇を引き結び、丸く膨らんだ鼻穴から小息を排出し、ゆづきは鎌を持つ手に力を込める。
 ビリビリビリ!
 「いやぁぁぁ!」
 杵の音の間隙を突くように、アリサの衣服を前掛けごと切り裂く音と、彼女の悲鳴の不協和音が小屋中に響き渡った。すかさずゆづきは衣服の切れ目に両手を入れ、軽く払うと、小屋に充満する小麦粉の粒を集めたかように真白く、きめの細かいアリサの肌があらわに…。


 「ああ、夢か…」(いや、死んでますから)

 ちくしょぉ!

 このやろぉ!! 

 「ぜぇぜぇ、な、なんでもいい。はぁはぁ、んくっ、とにかく、精力のつくもんをくれ…」

 ………
   ふぅ。

 「俺、何やってるんだろうな…。ぐすっ、ナオ……」
   心のすさんだ彼の目に、キャンプファイヤーの炎と、夜空に輝く星は、あまりにも優しすぎたのだった…。