Canvas2 〜虹色のスケッチ〜 24話

同24話「虹色(なないろ)のフィナーレ」。前話末から引き続き冒頭で、そして空港でも歌われる「ave verum corpus」、美咲菫はしつこいほどにかの曲を歌います。まるで本来あるべき浩樹とエリスの愛を祈るがごとく、何の伴奏もない、何の飾り気も華やかさすらない、無垢で素朴な独唱。本来ソロで歌われるべき曲ではないのにも関わらず、それでも彼女は真摯に熱烈に歌い続けるのです……。
「ave verum corpus」という曲は、友人への感謝という素朴な感情が基盤となって生まれたものであり、ある意味もっとも古典的、神への思いを何の制約も受けずにのびのびと表現した、深く純粋な祈りであるという(引用)。この物語は果たして、霧とのハッピーエンドを振り切って、作品としてのトゥルーエンドをぶっちぎって行ったのではなかったか。(制約のある)現世的な幸福を犠牲にして、(制約のない)神話的な幸福を垣間見させたのではなかったか。それを突拍子もない展開だというのも分かるけれど、それを言うなら、「お兄ちゃんラブ」の妹を放っておいて(理由はともあれ)昔一度振った幼馴染に未練たらたらな弘樹の言動自体、とっくに突拍子のないものであったはず。
そういった辻褄の合わない浩樹の言動を、シリーズはその鮮やかな演出と、一筋縄ではいかない物語、ゆるやかな構成によって丁寧に、熱心に共感で塗り固めていったのです。兄と妹は結びつくはずがないという当然の帰結を、深刻なせつなさと共に抱くに至っていた僕らの心情を、物語は結末においてひょいっと"裏切る"。めいっぱい幻想的に描かれる神話的なありえない幸福(トゥルーエンド)を、僕らが唖然としている間に描述し抜け、塗り固められてきた共感の上に突然花開いた、見たこともない絶世の可憐。憧憬するだけの幸福がそこにただ在るだけでした。
右往左往する長大な物語がしなやかに提起し続けていたものは、浩樹が再び絵を描くようになるかどうかということ。その点に関して、絵を描くことのできない浩樹をありのまま受け入れる霧の愛と、絵を描くものとしてあるお兄ちゃんを愛し続けるエリスという具合に見解が分かれています。
そういった意味で、エリスが一度告白したとき浩樹が振ったのは、兄妹だからという倫理云々ではなく、浩樹がいまだ、絵を描くものとしてあるお兄ちゃんでなかったから。本来の、絵を描く浩樹、エリスが愛されるべきそのお兄ちゃんを取り戻すために、エリスは自らのトラウマと対決し、ついに勝利しえたとき、エリスの愛しているお兄ちゃんは、当然のように彼女を迎えにやってくる。
お姫様の苦労は王子様によって報いられ、王子様の苦悩はお姫様によって導かれる、そんなふたりだけのおとぎ話は、ふたりの絵によって描かれる。だからこそ、浩樹は教師の道を捨て去ることに躊躇しなかった。彼はエリスを通じて自らの存在を知り、絵を通して自己実現していく、何よりも彼自身がそう望んでいたのです。
浩樹とエリスの奥底を往来している、兄妹愛と峻別し難い素朴で稚拙な恋愛、闇雲にうねるその愛情は、深く純粋な祈り。思いを込めて歌を歌う、思いを込めて絵を描く。それらは元々祈り以外の何物でもなかったのです。相手を信じられるからこそ、祈る。祈れるからこそ、自分を信じている。ふたつでひとつの絵。ある意味もっとも古典的ともいえるこの結末は、空港で突拍子もなく歌われる、本来合唱曲なのに独唱という強引な「ave verum corpus」のように、見ているこっちが恥かしい。他者や社会、良識というような一切の制約を強引に打ち払い、ひたすら甘いだけの夢、馬鹿らしくなるくらい、それは美しい。
本当の幸せってなんだろう。それはきっと、本当じゃない幸せのこと。エリスと浩樹の幸福はあまりに本当すぎて受け入れがたいし、朋子の不幸はあまりに本当すぎて受け入れがたい。至高の恋愛と、虚無の友情、人をまるで寄せ付けない背反に身震いしてしまいます。とはいえ、エリスと浩樹はまだいい、パリ(神話の世界)でよろしくやってくださいよ。でも朋子はどうするのさ。かわいそうに病気で性格がねじ曲がってツンデレ、痩せ細ってバストは親友のエリスより10㌢も小さいんですよ。ツンデレも小さいのも大っ好きなんだけどね! という人はPS2版「Canvas2〜虹色のスケッチ〜」をプレイしてくださいということなんでしょう(全年齢だけに小さいのをかわいがることはできなさそうだけれど)。
エリスには浩樹、霧には先輩も柳もいる、けれど朋子には誰もいなかった、だから彼女は不幸になった、だなんて阿呆な短絡を許せない、朋子にとって大切な誰かを出現させるために、彼女と何より僕ら自身を救うために、僕はPS2版「Canvas2〜虹色のスケッチ〜」をプレイする(中古で安くなったら)。それだけが、今のところ僕が本当に幸せになるための唯一の方法なのですから。(「今のところ」というのは、「病院のお兄さん」とやらの登場するアナザーストーリーが今後発表されそうな気がするからです)
目の位置が落ち着かなかったのが嘘のよう(嘘じゃないけど)、妙に楽しくてしたたかに感動的だったアニメ「Canvas2〜虹色のスケッチ〜」。エリス虐めに余念がなかったアニメ「Canvas2〜虹色のスケッチ〜」。シリーズ構成より先にアイキャッチ画像が息を切らしていたアニメ「Canvas2〜虹色のスケッチ〜」。僕はアナタを決して忘れない。