「Lの季節」新作の報と、思い出

 ■ 「Lの季節2」が2008年に発売

 オリジナルのスタッフを再結集して製作とのことですが、8年も経ったなんで今頃、という気がしないでもありません。そもそも「Lの季節」で試みたことは、トンキンハウスの後継作「Missing Blue」で良くも悪くも完了したと個人的に思っているし、「Lの季節」の続編をこさえようというのなら、「〜2」ではなく、「Missing Blue」を踏まえた新しいタイトルで臨むべきなんじゃないだろうかと。
 このニュースは、元ファンとして素直には喜べない、少し面食らったというのが正直なところです。
 しかし、それとは別に、懐かしさを覚えずにはいられないというのも正直なところ。「ときメモ」や「トゥルーラブストーリー」のヒット以降、雨後の筍のごとく乱発されたコンシューマー系ギャルゲーのなかで、特に印象に残っている作品のひとつですから。いや、駄作と論じられたギャルゲーですら、くだらないならくだらないなりに、今となってはどれにも愛着があるんですけどね。どんなヘンテコなポーズを撮影した自身の写真ですら、後になって見返せば思い出深いものがあったりするように。
 アニメーターとしても名前の売れていた渡辺明夫氏をキャラクターデザインに起用、当時はまだ目新しかった背景やオブジェクトの3Dテクスチャー、小松未歩の重くせつない歌によくマッチした感傷的でハイクオリティなOPムービーなど、妙に垢抜けていたテイストに話題性があったし。ゲーム作品としても、進めるにしたがって選択肢が増え、進めるようになるルート(ブロック)や到達可能になるエンディングなどのシナリオ構造そのものを、3次元的に俯瞰できるシステム。あるいは、選択肢の選択とは別に、ヒロインに対する好感度をプレイヤーが直接増減させることのできる「口出しシステム」、物語に出てくる世界観(設定)的な用語を解説する機能など。今となってはどうということもないけど、8年前では斬新なものがありました。少なくとも僕はそう感じたものです。
 「Lの季節」で試みられた、アドベンチャーゲームにおける外的・構造的ゲーム性の追及は、メタ性だのミスリードだの内的・形而的ゲーム性ばかりがもてはやされる昨今においては、古くさいけれども健全なゲームのありようだと思います。
 それがために、物語としていかにも短絡的で平板な、情感に乏しい印象を与えてしまったとしても、そこに『恋愛』が描かれていれば、たったそれだけで、無限にしたたかに思い入れることのできる夢が、当時の僕らにはまだ宿っていたような気がします。ダメなギャルゲーがあるんじゃない、そのギャルゲーを受け付けられない僕らがダメなんだと。恋愛ゲームと銘打たれている以上、僕らが共感し感情移入しなければならない何かがそこに描かれていることは、確かなはずだから。

 「だったら、どうせ最後に使う「力」になるんでしたら、キスくらいしておけばよかった」
 「んっ!!」
 紅茶を吹き出しそうになった上岡を見て、星原はポケットからハンカチを取り出し上岡の口にあてがった。
 「大丈夫ですか?」
 「君がおとなしい顔をして、過激な事、言うからだよ」
 「ご、ごめんなさい……。でも、キスって過激なんでしょうか」

 懐かしいついでに、久しぶりに「Lの季節」を再放送。メモリーカードにまだクリアデータが残っていたので、最初からは辿りつけないはずの星原百合ハッピーエンドを鑑賞。
 この恥かしいやりとりがですね、僕はとても気に入ってましてね。僕が「Lの季節」をまたプレイしたいと思うとき、最優先で振り返りたいシーンです。星原百合にあまりにも没入しすぎて、彼女のテーマ曲を耳コピで製作してしまったっけ。ま、元々単純な曲なんですけど。あ、あと弓倉さやかのテーマ曲もmidi化したなぁ。
 そうしたら、当時親しくしていたホームページ仲間が別の曲をmidiにして送ってくれたり。同時間軸上では「久遠の絆」について熱い思いを互いの掲示板で書きあったりと。僕にも多少はそういう青っぽい思い出があるわけですよ。アンチエロゲー、(コンシューマー系)ギャルゲー原理主義者というか。今思うとガキだったなあと。いや、エロゲーをプレイしているから大人だと言っていいものかは、難しいところですけどね。
 そういや、僕が葉庭さんを追いかけ始めたきっかけは、「Lの季節」の星原百合絵だったんですよ。もうギャラリーにも残ってませんけどね。
 さて、次は2番目にお気に入りの弓倉姉妹をプレイするとしますか。中川亜紀子なんて、最近声聞かないけど何してるんですかねえ。
 キャラデザはあんなに媚び媚びなのに、作品としては妙に鬱々としていて、物語は妙に素っ気ないんだけど、だからこんなにも忘れられないのかもしれない、「Lの季節」。味気が足りないから、たれや薬味を調合する。時代遅れと表裏をなす、夢の入り込む余地。それはもはや僕自身といってもいい。
 続編を作るんだったら、また年賀状くださいよw

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