市販薬の効能に感動する

 夏風邪をひいた。
 そして、薬というものについてしみしみと考えさせられた。
 温度調節機能が壊れ、つねにフルパワー、火事場の東京電力にとてもやさしくない仕様と成り果てた我がダイキン製クーラー。そういえば僕が中学生の頃から現役続行中だ、よく考えるとすごい。しかも壊れ方までユーザーフレンドリー。ありがとう。しかし寝冷えはするのである。
 症状的には、のどの痛み、せき、鼻みず。ドラッグストアに薬を買いに行くと、ちょうどその3つの症状に効くという薬があったので、購入し、服用すると、これがまったくその通りに症状が治まったので、少し感動してしまった。けれど肝心の風邪っぽさは、これを何日服用し続けている今でもまだ治らないことについても、少し合点がいった。
 薬、少なくとも市販の風邪薬は、風邪の原因となるウィルスに直接作用し、これを減らしたりなくしたりするのではなく、あくまで風邪の結果として身体に発生する諸症状を抑えるためのものなのだ。風邪の原因を治す(完治)には、きちんと栄養を取り、よく眠るしかないのだという。つまり、最初から最後まで、自分自身が養生するしかないのである。こうして書いてみると、本当に当たり前のことなのだが。
 そして、風邪にともなって発生する身体症状は、いわば原因を取り除こうとしている身体機能の正常反応であって、僕はいままで、心のどこかで、せきをたくさんすると風邪がひどくなるから我慢したほうがいいと思っていたことに、気づかされた。発熱や頭痛など身体の諸症状を緩和する風邪薬は、むしろ場合によっては、身体の正常な反応を阻害し、もしかすると養生による身体の回復を妨げているかもしれないのだ。
 要するに、鼻水がひどくて仕事に差し支えるとか、せきがひどくて寝つけないとか、日常生活を営むうえで支障をきたすような場合にのみ、身体機能に"妥協"してもらうための、ひとつの便宜が風邪薬であり、その程度のものだという理解が、実はもっとも正しく、しかも安全のような気もする。
 「市販の薬(今回買ったのはパブロン)は効かない」という話をよく聞くが、それこそ大半は、薬に対する無理解、他力本願的な"完治幻想"に基づく勘違いであり、最初から「症状が緩和すればいい」と思って薬を服用すれば、その効能は的確で素晴らしいということを、今回実感することができた。
 風邪がずるずると長引くのは、酒は飲むしラグナロクも長時間プレイする、普段と変わらない生活を送っている僕自身の不養生ゆえ。風邪薬を飲んだところで、風邪が治癒するまでの経過は変わらないのだという。それはあくまで、病状の悪化を抑えつつ日常生活をつつがなく送るための方便であり、ひるがえって、学校や仕事を休んで市販の風邪薬を服用しながら養生するというのは、少し的外れな身の処し方だったというわけだ。
 僕はこれまでいったいなにをやってきたんだろうね……。
 風邪をひいても学校や仕事を休まないために薬を服用する、どの薬を飲めばいいか判断できるからこそ浮上する選択肢。日常生活に重大な支障をきたすほどの症状を自覚した場合、判断どころではなく、病院に行って処方薬をいただくしかないのである。
 話は少しずれるが、風邪で病院にかかるとする。すると必ず初診(270点+電子化加算3点)がつく。たとえ3ヶ月以内に風邪をひいていたとしても、その風邪が一度治癒して、今回また風邪をひいたらやっぱり初診だ。
 さらに、良心的な病院では違うのだろうが、ウチの一番近い病院は風邪でかかれば必ず血を抜かれる。体温測って「平熱ですね」と言った舌の根の乾かぬうちに「一応血を採るね」言いやがる(自分の勤めた病院で、それほど酷くない風邪の患者には血液検査をしないのに驚いた)。何調べてンだか知らないが検査で600点以上取るのだ。インフルエンザかどうかなんて診察すればわかるだろうがこのボケ医者め。
 そこまで言うなら断ればいいと君は言うのだろう。そうだねいつか断りたいよね(夢、もしくは憧れ)。そして当然処方せん料68点(院外処方)がついて、合計で960点ほど。3割負担で3000円に届かんとする勢い価格になる。
  しかも、血を抜いた跡を押さえるガーゼを固定するために腕に貼るテープがえらい安物で、粘々した黒いヤツが何日も残ってしまうんだよね。それも嫌だし、実を言うとこの病院にはかかりたくない。これまでだって、かかった後はたいてい「今度から別の病院にしよう」と決意するものだったが、病院に行かなければならないときというのは、もちろん余裕がないので、どうしようもなく歩いて数分、ついついこの病院にかかってしまうのだ。
 自分の身体症状に見合った市販の薬を選ぶように、自分が納得できる病院にかかるというのは、とてもむずかしい。同じお金を払うというのに、だ。どうせ必ず検査されるのなら、検査してもらうのに納得できるほど"酷い症状"を自覚したときにしたい。そう思うと、病院とは養生に失敗した者がたどるバッドエンド先ということになる。
 誰だってバッドエンドは避けたい。そうして愚図愚図しているうちに症状が悪化し、すると選択の余地なく粘々としたアレを風呂場で擦っていることになるのだ。
 これが良心的な病院で、検査の採否についてちゃんと判断し、仮に検査をしなければ341点、3割負担1020円で済む。薬代を合わせても「少し高めの市販の風邪薬」を買うといった程度だろう。しかも、市販の薬ではたいてい長引いてしまうものだから、いっそのこと風邪の症状を自覚したらすぐ病院にかかって、治癒する道筋を早めにつけてしまったほうが賢いということになる。なんだかんだいって、風邪薬を5日分処方されて、5日以上風邪をひいているということはそうそうないものだ。
 たかが風邪、されど風邪。
 どの病院に行ってもどうせ初診料を取られるのだったら、将来にわたって信頼できる、自分と相性の良い医師と、良心的な医院を見つけ出すための良い機会だと捉えてもいい。近所の別の診療所や、少し離れているけれど"悪い評判を聞かない"病院など。検査の採否はその際のひとつの判断基準になるだろう。
 本来あるべきかかりつけ医とは、市販の薬がよく効かないから仕方なくかかるのではなく、どの市販の薬を服用するかということすら含めて、生活と療養とのバランスという観点から、本人の身体及びその症状を改善し良好に保つための指針を示してくれる存在なのだ。バッドエンドではなく、たったひとつの真正ルート。
 もちろん、最寄の医院がそれに適うのであれば、それに越したことはないのだが……。