拍子抜けしてしまった、グランドエンドへの願い

 この作品のヒロインシナリオ攻略順序には規制がかかっていて、ファルシータ、リセ、トルタのGood Endを経た後、新たな2つのシナリオと3つのGood Endが開放される仕組みになっている。後半の2つのシナリオは、真トルタシナリオと、フォーニシナリオ。しかもそのフォーニシナリオは、真トルタエンドを経た後でなければ進むことができない。つまりフォーニシナリオのエンディングは、作品のグランドエンドを要請されるシナリオでもあるのだ。ファルシータ、リセのGood Endと、トルタにまつわるGood End2種が、それぞれ一抹の物足りなさ、報われなさを感じさせる終わり方だったのも手伝って、益々グランドエンドを望んでしまうのだけれど、それが叶えられているとはいいがたいエンディングであったのが、ことさら残念だった。僕は、この作品に登場する全てのヒロインも満遍なく好きになってしまったので。
 フォーニシナリオで描かれる途方もなくささやかな奇跡と、無邪気で子供染みたメルヘンは、それ自体ほのぼのとした余韻を抱かせるものではあったけれど、他のシナリオをクリアしなければ得ることができないプレイ後感としては、あまりに罪悪感を感じさせるのほほんさといえるのではないだろうか。ただ僕が「そう感じる」というだけで、不毛で無意味な指摘だというのは承知しているのだけれど。
 僕は、フォーニシナリオのエンディングで感じられる幸せなのんきさ、穏やかなのほほんさを、全てのヒロインの将来にわたって"伝染"させて欲しいと願った。例えばフォーニの歌が、姿が見えないのにもかかわらず多くの聴衆の耳に届いた卒業演奏での奇跡を、主人公であるクリスが、各ヒロインシナリオの次元を超越して起こして欲しいと思ったのだ。クリスの存在はないけれども、彼に導かれ自由に歌う事を許される居場所を見つけたリセ。クリスの存在はないけれども、彼の音楽に自分に欠けた何かを見つけ出し、アーシノに罵声を浴びせながらも共にアンサンブルしているファルシータ。そして、トルタは……。
 どんな幸せの形でも構わない。ただ、全てのヒロインに途方もなくささやかな奇跡と、無邪気で子供染みたメルヘンを与えて欲しい。そう願わずにはいられないほど、ありのまま美しいヒロインたちなのだから。