雨天下、美味い指数100%

 年に2回、6月と11月になると僕は母親と2人でうなぎを食べに出かけます。どちらが言い出したかいつから始まったか、もう定かではないけれど、それは決まり事。うなぎを食べに行くお店も、その決まり事が出来たときからずっと同じでした。はてなダイアリーになる前、ニュースサイトの頃に写真を載せたことがあった、あの、うなぎがお重からはみ出してるうなぎ料理店。
 でもこの6月は、車で30分ほどかかるそのお店ではなく、自宅から歩いて5分のうなぎ料理店に行ってみました。こじんまりとした、2階が住居になってるようなうなぎ料理店。住宅地の狭間にぽつんと立つ、時代がかった火の見櫓風の看板が可笑しいくらい浮いています。
 この店は、ほんの2,3年前、母親がこれまた近所にある銭湯の帰りに、ぶらぶら歩いていたらたまたま見つけたそうです。県道から外れた住宅路のしかも中程にあって、出前もしてないみたいだから、近くに住んでる人も結構知らないんじゃないかなぁ。
  さて。土砂降りの中傘を差しててくてくと歩いて向かうと、平日の昼前だというのに店の前の駐車場に2台の車が停まっていました。
 (もしかして隠れた名店コース?)
 ひそかに胸を躍らせながらのれんをくぐると、
 「いらっしゃいませー」
 30代中頃と思しき女性が迎えます。奥の厨房にはランニング一丁の若い男性。年齢も彼女と同年代といった感じですから、妥当に夫婦でしょうか。
 軽く店内を見回すと、テーブル席が4つ、座敷に8席ほど。その全てに人影はありませんでした。
 (おいおい、自宅の駐車場代わりかよ…)
 とりあえず座敷の一席に腰を下ろし、瓶ビールとお新香と、つまみ代わりの刺身盛り合わせを注文。久しぶりに外食でアルコール入りのビールが飲めますよ(いつも僕は運転手)。
 店内にはオルゴールのソフトなメロディがゆらゆらと響いています。有線の演歌が流れていたあのお店とは大違いです。「うなぎ料理店といえばBGMは演歌」という刷り込みが強すぎるためか、オルゴールの音色が純和風の店内を照り返すように、妙に染みてきました。
 後ろを振り向くと、壁には夏らしい鰻丼のポスター。でも調べてみたらこれは2003年のポスターのようです。季節モノとして使い回しているのでしょう。あいにくの雨天下ですが、美味い指数100%を達成することができるのでしょうか!(なぜか実況風)
 それにしてもhttp://www.unagi.org/。いたずら心でunagiをusagiにしてみたら、やっぱりありました。mp3アーカイブとかいって、怪しすぎ。
 注文してしばしのまったり後、刺身の盛り合わせがやってきました。2000円分(これでも最安値)なのでそれなりのモノが来るだろうと予想していたら、ちょっとがっかり。
 「これで2000円分かよ」
 「スーパーでなら680円ってとこね」
 刺身料理の評価基準が完全にスーパー準拠なのがせつなげ。しかし皿の中央に、まるで霜降りカルビのような薄切り刺身が三切れ、大根の妻に悠然と腰を預けた王様然としています。
 「まぐろかなぁ……っっ!!」
 蕩けた!いま口の中でとろけましたよ!!
 「これはインドマグロに違いないわ!」
 「インドマグロキター!」
 母子で感嘆。旨いマグロ=インドマグロという公式は、テレビ東京系のグルメ番組クオリティ。なんだかこの時点で、僕らは何を食べに来たんだか良くわからなくなってきました。
 もちろんうなぎを食べに来たのです。UNA-GI(not ビートたけしの映画)。…なんかこのくどくどしさで書き続けていたら日が暮れてしまいそうなので、普通に端折りますと、特上うな重(2400円)、大変美味しゅうございました。脂の乗ったうなぎの極上のやわらかさ、たれの深い香ばしさと、ご飯の甘みが婚前一体となってできちゃった婚……じゃなくて、もう大満足。母親も同意見だったらしく、月森家御用達のうなぎ料理店はこうして、歩いて5分に変更されたのでございます。
 決め手は、うなぎのやわらかさでした。
 これなら僕の福沢諭吉さんも浮かばれたというものでしょう(束の間の再会でした)。ううっ。じゅる。
 半年後にまた会おう。その時にはぜひ、お吸い物から三つ葉を抜いてください(僕は三つ葉が嫌い)。あと、上の階から轟く生活騒音をどうにかしてください(間に合ってますから)。