スピードグラファー 第15話 濡れ女地獄


「やだなぁ、雑賀さん、そんなに簡単に死にませんよ」
「だよな、死ぬわけないんだ、お前が」



こんなにもせつない「やだなぁ」と、こんなにもみっともない「だよな」は、そうないんじゃないかなと思いました。

というか、水の中で息吐き切っちゃって、雑賀に人工呼吸をしてもらってなんとか命を取り留めた神楽が、まず言うセリフじゃないんです。そんな神楽を、涙と鼻血を垂れ流しながら必死に人工呼吸して、かろうじて息を吹き返させることができた雑賀が、まず返すセリフじゃないんです。
文脈から外れてて、すごく無茶苦茶で、日常感覚的に馬鹿げていて。でもそのズレたやりとりが、どこか安らかで、切なく心強い。生きるということに対する弱弱しくも無垢な執着というようなものが、"濡れ女"の生き様と相対して鮮やかに浮かび上がってきて、僕の頬を濡らします。
逃亡劇と同時進行で描かれていく、逃れられない神楽の運命についての雑賀の漫然とした焦り、神楽自身その運命について諦めていることへの憤りのようなものも加わって、がんじがらめになった彼の心境が、この話では真正面から描かれていて、
「雑賀さんって、すごい人だと思ってた。けど、意外と、かっこ悪い」
ヒーローになりきれないから、僕らは焦ったり、自棄になったり、みっともなくなりながらもんどりうつように、かっこ悪く生きていくしかないのかなぁ。でもそれはきっと美しいこと。きっとそうに違いない。
フィクションのミスマッチ返し、スピードグラファーにしては美しいお話でしたよ。好きだなあ、こういうの。