タイドライン・ブルーO.S.T

アニメ「タイドライン・ブルー」のサウンドトラック。音楽は斉藤恒芳さん、元クライズラー&カンパニーの人。アニメだと「緋色の月」や「時空転抄ナスカ」の音楽を作られていますね。どちらもお気に入り。
映像音楽はだいたい、空気みたいなものです。映像を包み込み、世界に命を吹き込みながらも決してつかむことはできないような、抽象概念としての音。けれど僕はこのアニメ「タイドライン・ブルー」を最初に観て、耳に入ってきた音楽について、そんな漠然としたものではない音の圧力のようなものを感じました。耳から頭のてっぺんの奥にじっとりと流れ込むように、はっきりとした命の脈として、やっぱりつかめはしないだろうけれど、それは僕のイメージの中でまざまざと具体像を形作っていって、思わずどくりとさせられたものです。
潮の満ち引きで変化する陸と海の境界線、タイドライン。とはいえこの音楽はその現象を遠くから眺めているのではなく、波しぶきを浴び、海風にあおられ、渦潮に巻き込まれるともいとわない、海というものの原始的な凄まじさを悠然と一体した、生々しく美しい母性的な胎動。
ぶっちゃけ、惚れました。
収録曲のいくつかの主題を横断的に構成して作品テーマを雄弁に叫ぶ序曲「青い地球」。切れ目のない弦楽の旋律が海中の流麗さと緊迫感を表現する潜水艦戦曲「艦隊」と、タイトルどおり怒涛のドゥーラビィーラが迫り二転三転しながら苛烈する戦闘シーン曲「ドゥーラビィーラ」(そういえば「時空転抄ナスカ」でも使われていた気がするこの曲、出典はなんだろう)。
女声ユニゾンが哀切極まりバイオリンがむせぶようにいななく「悲しみ」、かと思えば幻妖なギターの調べに追い立てられ逃げ惑うかのような「夜の海」。女声コーラスが各楽曲で見せる表情こそ、登場人物の心象であり、海そのものなんでしょうね。
印象主義風のしなやかな開放感と芳醇な陽射しの香りが愛らしい「喜び」「アオイ」「希望」。かと思えばバロック調のたゆみない無慈悲な弦楽が破滅的な対立を暗示する「危機」。そしてなんといってもこのサントラで出色なのが、「キールの回想」でしょう。ひどく重厚に激震するピアノ、ほとばしるのを止めない悔恨がどうしてこんなにも鮮やかで印象的なんだろう。背筋を凍らせるせつなさにノックダウン。
サントラとしては割と芸がないほうで、各トラックも演奏時間は2分以下のものがほとんど。DVDを買うならあえて揃える必要はないかもしれません。個人的には、「キールの回想」のピアノの主題をベースにピアノコンチェルト風のオーケストレーティングを施した大曲が聴きたかったものですが(この曲に感動してサントラ購入したもので)。その当ても外れて。アニメも9話までしか録画できてなくて、続きも見られそうにありません。
ヒロインがいきなり妊婦で、(破水とかしちゃって)すぐさま出産してしまうのにしたたかなショックを受けたり、主人公の言動がちぐはぐでどうしても感情移入できなかったり、良くも悪くも良かったのか悪かったのかよくわからなかった作品。よくわからないだけに結末が妙に気になります。事態は複雑系です。
だからひとまず、サントラだけは確実に手元においておきたくなったのかもしれません。なんてね。