ARIA The ANIMATION O.S.T

"未来系ヒーリングアニメ"と銘打たれた「ARIA The ANIMATION」を観ていると、僕はどうしても「ココロ図書館」を思い浮かべずにはいられませんでした。「癒し」というコンセプトで描かれたアニメとして、とても印象深い作品でしたから。
保刈久明さんが担当された「ココロ図書館」のO.S.Tは、僕の大好きなCDのひとつです。そうして、アニメと音楽を心ならずも比べてしまうのです。本当に申し訳ありません。
ココロ図書館」―それは物語。多くの人が同じくらいの印象深さを共感することができる。
ARIA The ANIMATION」―それはエピソード。身内で限定された密接な情緒、「あれは〜だったね」「そうだね」。
サウンドトラックについて、「ココロ図書館」は、音楽がとっくに物語的で、映像的ですらありました。目を閉じるとあの場面が瞼によみがえるくらい、それは情景(メルヘン)然とし、であればこそ無垢な情感がぱぁっと広がるように、ゆるやかに心弾むやさしい音楽でした。
そして「ARIA The ANIMATION」は、音楽がその肌ざわりごと日常的なんですね。舞台は人造惑星AQUAの、ヴェネツィアの街並みを模した「ネオ・ヴェネツィア」。それらおしなべて"作りモノ"の世界であるがゆえに、アニメーションとしての「作りモノ」という宿命を"紛らわせ"、"責任転嫁"し、どこ吹く風かしらの悠々自適スタイルを構えることで、他愛のない日常を心温まる純朴さとして描き出し、かつ感じられたアニメーション。そんな"しれっ"とした作品のありようへと、視聴者を「身内(感覚)」にいざなう役目を果たしているのが、このO.S.Tであると思うのです。
バンドリンとアコースティックギターコントラバスというChoro Clubに、ピアノ、小編成のストリングスがいろどりを添えるささやかな演奏は、ごく滑らかに気持ちの固みを解きほぐし、親しみのにじみ出るシンプルで体温的なぬくもり。頬の緩む人懐っこい音楽。メロディが口をついてくるというわけではなく、感動に胸がふるえるというのでもないのに、奇妙なまでに心に鮮やかと別ち難い、そういう愛着に根ざした魅力があるように僕には感じられました。
お風呂で誰かが気持ちよく口ずさんでいる歌を脱衣所で聴いているような、ほわっと脱力系「ウンディーネ-forest mix-」(歌・牧野由依)(M2)。チェロとピアノが深玄な愛おしさを奏で織る優美なファンタジー、「満月のドルチェ」(M7)。どこまでも透明でどこまでも広がりあるボーカルが、やさしげに身を揺らすこの波の果てしなき淵源へと思いをはせる、「バルカローレ」(歌・河井英里)(M9)、この感動はぜひフルサイズで味わいたかったものです。
日常にぽっかりと開いた穴、メランコリックを湛えて震えるアコギがせつない「届かぬ想い」(M13)。快活な風情が観光気分をくすぐる「アドリアの海辺」(M17)。ロマンティックな「星影のゴンドラ」(M18)とともに、率直なまでの澄みやかな心情が飾らない演奏によってしたたかに涙腺緩ませる、「天気雨」(M20)。心和ませる日常の波のかなたにほんわりと映る憧れ、夢まどろむ印象的なピアノ曲「そして舟は行く」(M24)。
"その"日常はひどく美しく、やさしくて。そんな美しくもやさしい「ARIA The ANIMATION」の音楽が、ひどく郷愁的であるのは、それが僕らにとっての日常でもあるから。"この"日常。なにより、そう感じられるのはそう感じたことがあるから、なのだから。そんな"間抜けな意表"に気づかされたとき、確かにそれは「泣きたくなるほど幸福な音楽」になりうるのかもしれませんね。