灼眼のシャナO.S.T

音楽というものを正と負の符号で識別すると、この「灼眼のシャナ」には正の音楽がありません。それを抽象的に例示するならば、勝利がなく、熱血がなく、正義がないのです。戦闘を中心にした物語のテーマ的な深刻さ、そこには常に暗黒的な色彩が濃く滲み、背徳的で暗澹とした負のサウンドの内で、正でも善でもない、苛烈な意志を秘めた凛々しい旋律が何より純然として美しく、心惹かれます。
安易な快活のない徹底した音楽性は、悪戯っぽく潜り込んでいるユーモラスで穏やかなサウンドを際立たせ、そうして僕らの心象へと優しげに吹聴してゆきます。それらゆるやかな機微は、ダークを拭い軽減させる温かみではなく、作品の感性を立体化させていくもの。戦いや宿命というマイナス平面上の差し引きではなく、プラスとマイナス各々様々な感情を共存させている人という立体上を、あざやかに行き来するよう設計された音楽、それが「灼眼のシャナ」の音楽なのだと僕は思うのです。
シャナという女の子が抱く戦いへの決意と宿命と、等身大のやさしい思いをドラマティックに綴った序曲、M1「Shana」。シャナや悠二たちの日常と学園生活を、素直に、おかしく、あどけなく奏でるM3「La pensee ce qui est faible」M6「Paysage d’e l accummulation de jour」M10「Debut d’un jour」M14「Innocent」。ぽわんぽわん跳びはねる不可思議でしどけない旋律とツンとした音色が、無性にかわいらしく、この曲全体がシャナ役の声優釘宮理恵を表しているように思えてならないM8「Danse des fee」は、特にお気に入り。
真摯でまっすぐな、けれども独りよがりにならない哀しみを湛えたM11「Verite」M17「Comprehension」。
本編でも使用例の多い戦闘曲群は、通底した世界観を感じさせます。奇怪な前哨戦をどっしりと伝えるM4「Amusement de personne idiote」。本格的な戦闘その起伏に富む動静に息を飲むダークサウンド、弦とブラスの熾烈な競奏が熱いM16「Bataille」。低音をギスギスと激しく震わせるハープシコードとサックスへ、バイオリンの旋律が間合いを詰め、切り結び、もんどり打つかのように気勢を変転させていく、戦闘の終幕を予感させるM22「Serieux」。戦闘シーンは「灼眼のシャナ」という作品として重要なパートを占めているだけに、音楽も確かな気迫が感じられます。個人的には「The SoulTaker〜魂狩〜」の息吹を思い出しました。
そして、悲劇の中からささやかな希望を見出していく、不屈で端正な弦楽奏が微笑ましいM23「Reveil」、こうしてみると曲構成的にも嗜好が凝らされていて良いですね。