伝統的な共同体では、お互いの情報は筒抜けだ。あなたは私を、私はあなたをコントロールできるからお互いひどいことはできないと、そうして秩序を保っていた。その「安心社会」が限界を迎え、新たな社会秩序が必要になった。だが、安心社会に慣れた人は、見知らぬ人が自分のことを知っているのに、自分はそのことをコントロールできないので大きな不安を感じ、情報を提供するメリットに眼がいかなくなる。これはかなり根深いもので、進化的な基盤にも関係がある。
――進化的な基盤とは?
不思議なことに、人間には類人猿の中で唯一、白目の部分がある。(瞳が)どこを見ているか分かり、スキを見せてしまうから不利なのに、なぜ白目を進化させたのか。それは、他者に目を見てもらう必要があるからだ。「私には悪意がない」と伝えることが、社会を作るのに重要だった。
白目を見せないのは、サングラスをかけることと同じだ。今まで安心を提供していた閉ざされた社会が崩れることへの不安が強くなりすぎ、皆、サングラスをかける。これが今起きていることで、それで社会が営めるのかというのが匿名社会の問題点だ。社会的ジレンマの一種で、皆、不安に駆られて情報を出さなくなれば社会は成り立たない。