蟲師O.S.T

蟲師 オリジナル・サウンドトラック 蟲音 前

蟲師 オリジナル・サウンドトラック 蟲音 前

蟲師」のサウンドトラックとして、音楽単体をこうして聴く機会を得ると、その音楽が通常の劇判音楽ではなく、"劇上音楽"なのだということを思い知らされます。
ライナーノーツで作曲者増田俊郎氏が記している通り、世界観に際してイメージを膨らませた音楽ではなく、物語を拝して情感が引き続かれているような「蟲師」の音楽は、正直アニメ本編と切り離して聴くべきものではなかったのではないかと、良い意味で後悔すらしているくらい。そもそも各話ごとオリジナルのエンディング・インスツルメント楽曲が起用されているという時点で、その一体感は分かち難いものであることくらい気づいていたわけですが。
ごく短く、素朴で透き通った旋律が、あどけないぼんぼりを灯すように輝いてゆくその音楽は、空間をさらさらと広がり、感覚をするすると染みる。電子音を中心とした決して豊かでないハーモニーは、中空を漂う神秘感をそぞろに描画し、パーカッションなどによる日本的な音楽造形が、地上の(人間的な営みの)重みを断定する。その空と地のあいだを切々と紡がれるピアノのほの温かな叙情性。なんて居心地の良い、そして居住まいを正させる霊涼な環境音楽であることでしょうか。