かしまし〜ガール・ミーツ・ガール〜O.S.T

男の子を女の子にしたり、宇宙人が出てきたり、水谷優子だったりと、あくまで"あかほり流"のしっちゃかめっちゃかな外形をしているけれども、それでもこの「かしまし」という作品は、女の子たちの恋愛と日常を真面目に描こうとしていたのだということを、こうして音楽を聴いているとよくわかります。たとえフィルムで嘘をついたとしても、音楽は嘘つけないしね。この年になるともう恥かしくて恋愛を素面で取り扱えない、だからつかなければならない自分に対する嘘、オヤジたちの言い訳があの設定に表れているのだとしたら、このサントラはまさに本音の軌跡。70分超にも及ぶ、あたたかくて純真なココロに満ち溢れたトラックスは、本当に平凡で、平穏で、微笑ましいものです。
小規模のストリングスと木管楽器、ギター&サックスとピアノによって構成されたアコースティックな演奏は、アニメ音楽というよりもゲーム音楽的。例えば一連のシーンをドラマティックに奏でるというのではなく、1つのシーンをイメージ的に装飾し膨らませるような、脳裏にふわっとした日常の情景(アニメ的な)を容易に思い起こさせます。サウンドの"視点"が主人公やヒロインという枠組みにこだわっていないというか。コミカルナンバーに、多くの作曲家が携わったこのO.S.Tならではの多文化っぷりが如実に表れていて、楽しいですね。
爽やかでまぶしく、短いスカートと半袖のワイシャツが似合う真夏を思わせるうららかな日常の風合い。たとえばM20「日常の描写」と素っ気なく名付けられたtrackは(自身結構好きなのだけれども)、夏休みの自由気ままさと背中合わせの気だるさが、もくもくと広がる入道雲に映し出されているかのよう。過ごしやすい端正なひとときをそわそわした思いが沁みるM21「切なさの断片」など。
ゆるやかな思春期の心地よい日常にあって、恋愛のせつなさを真剣に綴った楽曲群はひときわ印象的。M11「心の描写」やM13「乙女の琴線」など、特に劇中の重要なシーンで使用の多かったM23「悲しみのアダージョ」は、湿っぽいバイオリンがひたすら繰り返す音形が妙に切なく心に迫ります。M27「悲哀も乙女には..」は、このアルバムの中でも特に美しく哀情的なピアノソロ曲。
悲しい恋愛から解かれ癒されてゆく女の子たちの心は、極上のセンチメンタル。M2「優しさの温度」M28「心の解放」M37「優しさを持っていたい」など、傷ついても誠実で、やさしい。ぶっちゃけ、あのアニメからどうしてこんな素敵な音楽が生まれてくるんだろう。とはいえバグパイプをフィーチャーしたM34は「並子のテーマ」、この横柄な弾けっぷりも僕は決して嫌いじゃない。