電車の7人掛けシートの端席は、真っ先に埋まっていく人気席です。それは、電車が発進する瞬間の重力を側面の仕切りが支えてくれることや、片側ひとりの他人としか接しないで済むこと、ドアに近いので降車駅に着いたとき便利であることなど、いろいろ優れた点があるからです。
だからか、7人掛け席の端席が空いたとき、それ以外の席に座っていた人はたいてい、腰を浮かせて端席に移動します。端席の前でつり革に掴まっている人がいた場合は、つり革の人が優先的に座るみたいですが。端席が空いて、隣の席の人が腰を浮かせ移動するような場面自体は、よく見かけるものです。
僕はだけど、そういう行為をあさましく思ってしまうところがあって、隣の端席が空いたときなどは半ば意地でスルーしています。なんか嫌なんですよね、それをするとなんとなく居心地が悪くなるだろうことを想像してしまうから、避けてしまう。良いとか悪いとかの秤にも乗らない、どうでもいいことなんですが。
先日のこと。乗車率110%くらい(座席は全部埋まっていて立っている人がちらほらいるような状態)の電車で、僕はドアの横角に立って、座席の仕切り板にもたれかかっていました。とある停車駅に着き、背後の端席に座っていた人が降車していきます。僕はその席に座りそうな人がいないことをそれとなく確認し、くるりと身を翻し端席に向かいました。するとその合間に、空いた端席の隣に座っていた中学生の女の子(セーラー服を着ていた小さめの子)が、腰を浮かせて”ひょいっ”と端席に移動したのです。
間が悪いなぁと、それまで彼女が座っていた隣の席に座ればいいだけのだけれど少し、戸惑いながら僕はなんとはなしに、女の子のうつむいた顔を前髪越しに見やりました。
そんな僕を上目遣いで視界に入れた、ような気がしたすぐに彼女は、なんと、元座っていた隣の席に”ひょいっ”と戻っていったのです。
とはいえ僕は表面上平静を装い、再び空き放たれた端席に"すとん"と腰を下ろすしかありません。まさか「ありがとう」とは言えないし(嫌味っぽい?)、目立って驚くようなことでもないでしょう?
全部で3秒もかからない無言のやり取りだったけれど、なんとなく印象に残りました。特段かわいい女の子という訳ではなく、オチもないけれど、僕と目を正式に合わせようとしなかった彼女のありようから、僕のそれをあさましいと思う感性は、割と独りよがりなものでもないのかもしれないなぁと、思ったのでした。

6月になりました(もう3日ですが)。「さくらむすび」のカレンダーが件の6月分になりました。あまりにも幸せそうで気色悪いですね。

ハルヒ」のオープニング曲が通算で4回も流れていた件はまあ良いとしましょう。実際売れているそうですし。しかしですね、エンディング曲まで通算3回流すというのはどういう了見でしょうか。ピンポイントで僕を狙い撃ち? どちらにせよキチガイ染みていませんかこの商店街…。
仕事を終え疲れた身を引きずるようにして辿り着いた商店街でいきなり「大きな夢&夢スキでしょ?」聞かされたときの肩身の狭さといったら、ないでしょ? 精神的な疲れがどっと噴出します。居た堪れなくて視線がアスファルト以外の物を映し出せません。「ワープでループなこの想い」を叫ぶスピーカーの下で春巻きとか餃子のパック詰めをおばちゃんが威勢よく売っているのですよ? 「ダイコン安いよー」みたいな八百屋さんの掛け声とハーモライズしているのですよ? これら映像のシュールさ加減はまさに筆舌に尽くしがたく、まじ実際をお見せできないのが残念です。

評判が良かったので買ってプレイしてみた「もしも明日が晴れならば」が、予想外につまらなくて拍子抜けしてしまったけれど(つくづくエロゲーの、第三者や一般的な評価はアテにならないと思い知ったご様子)。通勤用にと読み始めた橋本紡の「半分の月がのぼる空」が予想外に面白くてご満悦。
読み耽っていると通過駅とか、自分の容貌とか存在のことについてすら"うっかり"してしまいます。ふと顔を上げて窓に映っている人物「これ俺だけっけ?」みたいな、自我や社会性を希薄化させてやまない濃厚で純粋な引力が、あまりにも他愛なくて、むしろ抵抗したくありません。
橋本紡さんは、「リバーズエンド」のあほみたいなSFっぷりで懲りたはずなんですけどね。あの最終巻で感じられた、おとぼけとジュヴナイルを空想的に繋ぎ合わせたキレイな内心描写(内省)が意外と心に残っていたのでしょう。その印象を清々しく満足させる内容であったことが、とても嬉しいわけです。
氏の小説世界は、内容を読むというより鑑賞する、意味を理解するというよりも先ず言葉の繋がりを感じ。結果、読んでいる間の僕の世界には僕しかいなくなる。全巻読んだ後に何か感想が書けたらいいですね。
しかし、挿絵が高野音彦さんでないのはまったくいただけませんね、まったく。山本ケイジさんの絵が嫌いというわけではないのですが(好きでもないが)。絶対的に僕は高野音彦信者なので。