近所の自然公園にてひとりになればなるほど部屋は散らかり、ひとり言が多くなってきますね。母親と僕は一緒に住んでいるのに互いにひとり言ばかりです。無干渉というか、最大限、必要最小限しかちょっかいを出さないという暗黙の協定が、長く平穏に同居していく秘訣のように思っている節があるのです。だいたい、母親の言ってることは、ワイドショーで聞きかじった社会ネタとか、芸能スポーツネタとかばかりで、ほとんどくだらないですしね。たまに興味のあることを言うので、「それってどういうこと?」と尋ねても、「くわしくは知らないけど…」といった感じで。
つかみどころがありません。母親と息子の関係というのも、同じようなものですがね。はてさて、クリスマスケーキどうすっかなー(母親は「ケーキなんて食べない」と言っている…)。
母親といえば、先日仕事に行きかけたのにすぐ戻ってきて、慌ててこう言うんですよ。
「ぎ、ギアが変わらないのよっ!」
なんじゃそりゃ。眠たい目を擦りながら袢纏をまとい、駐車場に行って車を操作してみると、なんの異常もなくギアはチェンジできます。
「以前もコンビニから出るとき同じことがあったのよ」と母親。
「ちゃんとブレーキ踏んでるよね?」一応確かめてみると、
「あ、踏んでなかった…」
――ボケるのはもう少し僕に蓄えができてからにして欲しいものです。
とはいえ僕も、既にここに書いたかもしれないけれど、古本屋の駐車場から出るときにエンジンがかからなくて焦ったことがありました。そのときはギアがパーキングになっていなかったんですけどね。ふだん意識せずにやっていることって、物事をふだんどおりに行わなかったとき、とたんに刃を向けてきますね。まるで「今まで意識してくれなかった罰よ」みたいな。隣に住んでる幼なじみの女の子を異性として意識し始めた途端親友が告白して付き合いだしてあろうことか彼女の部屋でエッチしているのをお裾分けを届けにきた際ドア越しに音声オンリーで聞かされるようなものでしょうか。
うん、車から離れるときはギアをパーキングにしよう。ギアを動かすときはブレーキを踏もう。幼なじみを親友に寝取られないために…。