橋本紡 空色ヒッチハイカー

空色ヒッチハイカー

空色ヒッチハイカー

僕にとっての橋本紡という書き手、という文脈に沿ってこの作品を好きか嫌いかで区分けすれば、きっと嫌いのほうに分けると思う、「空色ヒッチハイカー」。
平易な文章の中に"ほろっ"とするような透明の表現が心に染みたり、こっけいな展開のうちに"えっ"とするような誠実の内観が心を揺らしたり。青春や恋愛に飲み込まれ、こどもと大人のあいまいな境目を行き来する少年少女の、ちょっとおかしくて、おかしいのに心に残ってしまって、なんか悔しいくらい、とても嬉しいというのが、僕にとっての橋本紡という文脈の解釈。しかるにこの作品は、そもそもあまりに都合が良すぎて「くだらない」と言っても構わない、露悪趣味的にいやらしいし、主人公の内面に共感がなかなか及ばないし、ていよく現れていよく去っていく登場人物たちを、「ヒッチハイク」という装置で説明してしまうのはあまりに不義理だと思ってしまいます。
恋愛やSEX、人生模様が、ライトノベルを飛び越えてむしろアニメ的。1日を前後編に分けて1クールのアニメにしたらきっと面白くなるに違いないと思えるくらい、人物像が軽薄で、物語が散漫で、不謹慎に過ぎ、そこに意味があるんだろうとは予測がつくものの、僕はあまり好きになれません。易しくて優しい表現はどうしたって大好きで、純真な情景描写、主人公の内面のいくつかの言葉は僕の感性に直接響くようだけれど。それでも物語はどこか素通りしてしまう。いつまでも地面に落ちない紙飛行機のようで、造形に心惹かれるけれど、僕には受け取ることができない。そういうこともあるのかなと、今回は残念だなと、思ったのでした。