白いふともものうしろ

椅子に座り、背もたれをめいっぱい倒して"ぐーっ"ってやっていると、雰囲気でも感じ取るのかウチの猫がどこからかやってきて、ひょいと椅子に飛び乗り、僕の下腹あたりにうずくまってウトウトしようとします。同居しているのに餌やりや就寝についてほとんど接点のない僕と、それは彼とを結ぶ"ならわし"。
しかし最近は、僕がそういう姿勢を取っていても、彼も椅子の下にやってきて飛び上がろうと前足を挙げるものの、思い切りが足りないのか取りやめてしまうんです。それでも諦めきれないのか、いつまでも足元をうろちょろうろちょろ。なんだか哀れに思えてきたので、取り上げてお腹に乗せてあげました。けれど、例のトラウマで僕に触られるのは嫌なんでしょう、恩知らずにも嫌そうに鳴くものの、上げ膳食わぬはなんとやら、ウトウトし始めます。服に毛が付くのであまり好きではないんですけどね。
生まれたばかりの捨て猫を近所の知り合いから貰ってきたのが、僕が高校生の頃だったから、もう15,6歳。かつてはよく登っていた戸棚やキッチンにはもう、全く登りません。登れないんでしょう。寝て、鳴いて、エサを食べてフンして寝る、僕も羨む"くうねる"余生を過ごしている彼は、せめてそのヒステリックな鳴き声を少し控えてくれないものかなと、思わないでもありません。
そんな猫を払いのけて、僕は履歴書を書く。ええと、いろいろありまして、3月に就いた仕事をやめました、たった2ヶ月で失業舞い戻りです。とほほなヤツです……。
前職で使った通勤定期券を活用して面接に向かう昼下がり、車輪の軋みに時間も緩む電車内や、初夏の態度がまだぎこちない街中、静粛が息している図書館。坂道を立ち漕ぎで登る女子高生の、白いふともものうしろと、上下運動にふわり、春風にひらりと無邪気にはためく短いスカートに、自身の内面はとたん粘膜を帯び、意識はいたずらに揺らぐ。まぶしく初々しい季節の中で、僕はいったいどこに向おうとしているんだろう。僕の世界は途方もなくやさしくて、世界の僕は途方もなく定まらない。坂道の途中で車を止めて、携帯で写真でも撮っておけばよかったですよ。