月極駐車場の極は極道の極

日本を代表する三大企業(from 壺コレ!!さん)

・株式会社月極
 日本全国で駐車場等を運営、日本最大手
 保有物件に「月極」の看板を掲げている

 僕は子どものころ、月極駐車場をとても怖いところだと思っていました。
 古い映画に「極道の妻たち」という任侠シリーズがあって(今もあるのかな)、当時テレビでやっていたのを親と一緒に見ていたことがあるんですが、あの映画ってけっこう濡れ場というか、エロティックな場面が出てくるんですよね。
 まさにそういうシーンに差し掛かろうというとき、親が突然「お前は見ちゃダメ」とか言い出して僕に目を背けるよう言うんですよ。ちょ、なんだよそれ。
 「霊幻導士」見てたときにもそういうことがあったなあ。それはいわば、なんのオチもないまま打ち切りみたいなもので、悪い意味で強く印象に残ってしまいます。
 それが原因かどうかはわからないけれど、暴力団という存在すら知らなかった僕は、「極道」という、なんの理由もなくすごく怖いことをする大人たちがいて、それは理不尽にも隠蔽されるものというイメージがまずついてしまって(それは奇しくも的を得ていた)。
 そういえば、よく見かけるけど意味の分からなかった月極駐車場の「月極」、その"極"は極道の"極"だという連想がごく自然になされ、あんな怖い組織が家のすぐ近くにそ知らぬ顔して存在していたのか、ということに気づいたとき、この社会とはなんて物騒なところなんだろうと、恐ろしくなってしまったものです。
 月極駐車場とは、怖い大人たちが月ごと見回りにやってきて停めてある車に傷や凹みがついてないか細かくチェックしている、そうやって管理されている駐車場のことだと、誰に尋ねることなく僕は思い込んでしまった。本当のことを親に聞けなかったのは、聞いてしまうこと自体不吉な感じがしたからです。
 たとえば「極道の妻たち」で親が見せてくれなかったシーン、大人の男女がなにをしているかなんて子ども心にだいたい想像がついていたけれど(女の人のおっぱいとかを男の人はちゅうちゅうしてるんだ)、それでも親に直接聞いたりはしないように、月極駐車場が極道の管轄だということに薄々気づてしまったとしても、それをわざわざ親に確かめたりはしない。それをすることは、自分が悪い子どもだという証拠を、いちばん知られたくない相手に見せびらかすようなもの、それは子どもとして決してやってはならないことでした。
 そういうわけで、たとえ駐車場に停めてある車がほとんどなくて、野球の壁当て練習に最適だと思えても、僕は決して駐車場内で遊ぼうだなんて思いもしませんでした。月に1度だけとはいえ、万が一にも遊んでいる最中にあの怖いおじさんたちが見回りにやっきたら、いったいどうなってしまうことか……。
 きっと僕は鉄砲で撃ち殺されちゃうんだ、もうファミコンをプレイすることができなくなってしまうんだ、それは想像するだに恐ろしいことでした。
 ましてや、いつだったか、怖いもの知らずな友達が月極駐車場で遊んでいて、「おい見にこいよ、駐車場に蜂の巣があるぜ」なんて近所の子供たちに触れ回ってきたことがありました。それで僕にも教えてくれて、まだ一度も見たことがない蜂の巣というものに純粋に興味がわいたし、「みんなで駐車場に入れば見つかってもきっと平気に違いない」――。
 僕は当時、皆殺しという言葉すら知らない無垢な少年でした。
 5,6人の子どもは集まっていたかな。すると、たくさん人が集まるとたいてい無謀をする目立ちたがり屋がいるもので、その一味であるひとりが、近くにあった木の枝でその蜂の巣を突いたんですよ。
 そうしたら、蜂が大量に出てきて――。
 う、うわああああ!!
 僕たちはまさに蜂の子を散らすように逃げ出しました。それが、みんな三々五々に逃げ散ったというのに、大量の蜂はなぜか僕のほうにばかり集中して追いかけてくるんですよ。
 ちょ、ちょっと待ってよ! なんで僕にだけ着いてくるんだよ! 巣を突いたのは僕じゃないんだよ! ちゃんと調べてから追いかける人選んでよっ!
 どこまで走って逃げただろう。そのあまりの怖さに僕はおしっこをちびってしまうところでした。いや、実は少しちびっていたかもしれません……。それは神、いや、母のみぞ知る。
 蜂に追いかけられ散々な目にあった日以来、僕はますます月極駐車場というものが嫌いになりました。それは駐車場が視界に入るたび竦むくらい、「月極」という言葉を口にすることすらはばかるほどのレベルで。親がその蜂の巣のあった月極駐車場を利用していたのですが、車に乗るにも、父親に家の前まで移動してもらってから乗るという始末でして。
 その名残でしょうか。いまでも「無断駐車には金3万円申し受けます」なんていう月極駐車場の注意事項を読むと、きっと暴力団関係者が取り立てにくるんだろうなあ、怖いよなあと、条件反射的にそういう想像をしてしまうのを止めることができません。
 月極駐車場の極は極道の極。つまりそういうお話でした。

 ところで、関係ないけどNHKの「ニュースウォッチ9」で、私立中学の受験日のために席の半分が空席になっている小学校の教室が紹介されていて、「寂しいけどみんなには頑張って欲しい」といういかにも優等生的な受け答えをしていたクラスの女の子が、すごくかわいかったなあ。
 ああいう子がいるなら、僕は公立だって捨てたもんじゃないと思うんですよ。本当に関係ないけど。