抵抗戦略としてのゲームプレイ 増田泰子(沢月櫂)

1,遊びにおけるルール

ルールとは

ルールの性質:

  • プレイヤーの行動を限定する
  • 明示的で、あいまいさがない
  • すべてのプレイヤーが共有される
  • 固定されている
  • 拘束的である
  • 繰り返される

ゲームのルール

「ゲームのルールは社会的ルール(エチケット、法、戦争など)とは異なって本質的には人工的であり、『現実世界』の文脈とは隔てられている」

ルールについての補足

  • ゲームプレイとは、ルールに従ってゲームに参加しようとする態度が必要
  • 書かれないルールの存在

非効率的なルールでも受け入れられるかどうか。
サッカーのイエローカードの基準は明示されていない。エートス、社会的慣習に対する共通の認識が必要

ルールをめぐる支配と従属

  • ルールとは行動の可否/是非を判定する基準となることで、プレイヤーの行動を特定の方向に誘導するもの
  • プレイヤーはルールに従属する態度をとることでゲームに参加する。
     プレイヤーはあるゲームをプレイする限りにおいて、そのゲームのルールに支配されている。

ルールの可変性

  • 対面の遊びにおいて、ルールはその場で変えていくことが可能
  • プレイヤーコミュニティの承認が得られれば、ルールを変えたり、ルールの運用・解釈に柔軟性を持たせたりすることもできる
     (←「よくプレイする」ために)
  • ただし、ある運用のしかたを受け入れない参加者がいた場合、そのルールの運用は自己矛盾を起こすこともある

地方ルールの存在。プレイヤーコミュニティでの承認が得られさえすれば変更可能。
「よくプレイする」=いい感じにプレイするためにルールを破ったりする

プレイヤーによる可変:rule-breaking

ルールを曲げたり、ごまかしたり、破ったりする行為。ゲームプレイの一環(その契機がゲームに仕掛けられている場合も)
 プレイヤーのタイプ、態度によって用いるrule-breakingは異なる

プレイヤーのタイプ

  • スタンダードなプレイヤー

与えられたルールに従って楽しむ

  • 献身的なプレイヤー

自分のプレイを極める、達人。公式ルールを研究する

子ども相手に本気に勝ちにいく大人。バッターに話しかけるキャッチャー

  • いかさまをするプレイヤー

かくれんぼで目を開けている鬼

  • 楽しみを邪魔する人

かくれんぼの最中にどこかへ出掛けてしまう

2,コンピュータゲームにおけるrule-breaking

rule-breakingの例

仕掛けられた"お楽しみ"

  • 開発者が仕込んだ裏技(Cheat codes)
  • 攻略ガイド(game guides & Walkthroughs)

本来ゲーム内で試行錯誤することで得られる情報を先取りしてしまう=rule-breaking

  • プレイヤーが発見した裏技(workarounds)
  • いわゆるチート(true cheating)
  • コードの書き換え(Hacks)
  • ゲームを壊すハッキング(Spoil-sport Hacking)

rule-breakingが多様な理由

  • コードの柔軟性
  • 複雑なプロセス

ハッキングの隙がありやすい

  • 匿名性

誰の目もないのでずるをしやすい

  • 他プレイヤーが現前しないことによる自立感

自分の力がゲーム世界に影響を与えられるという思い

  • 作品のコードや構造を再構築するファン

さまざまなポップカルチャーに言えること

問題

  • rule-breakingが容易なことと実行することは別。
  • ゲームをプレイすることはルールに従うことだったのに、そのルールをわざわざ破ろうとするのはなぜ?
     →プレイヤーにとっての、ルールを破ろうとする動機があるのではないか?

3,プレイヤーの抵抗としてのrule-breaking

ルールを変えようとする時

対面での遊びの場合:

  • それまでのルールではもはや楽しめなくなってしまった場合
     「よくプレイする」ために変えられる
  • ルールを受け入れる態度を持たない参加者の存在
     コンピュータゲームの場合、普通のプレイヤーが直面するのはおそらく前者のケース

ゲームが楽しめなくなる時

コンピューターゲームの場合

  • プレイヤー要因
     慣れや熟達→ルールに飽きる
     環境の変化→ルールを守れなくなる

仕事が忙しくなってきたので、設定やパラメータを変えてさっさとプレイしよう

  • ルール要因
     ルールの変化や(買う前の)予想との食い違い
  • プレイヤーとゲームの関係要因
     受け入れがたいルール、難易度のシビアさ・甘さ

 →プレイヤーとルールの関係の変化

男性主人公に対する抵抗 「ドラクエ5」では女の子と結婚してしまう
ストーリーの展開が好ましくない 「FF7」エアリスの死

合意なきルール運用と改変

コンピュータゲームの公式ルールの運用や改変は、合意によってなされるものではない

  • 公式ルールの運用・改変にプレイヤーは関与できない 異議を申し立てられない
  • これからプレイするゲームのルールや運用の程度についての知識をプレイヤーは持たない

ゲームとプレイヤーの軋轢

  • 合意なしに運用。改変されるルール
     →プレイヤーが守らなかったり受け入れられなかったりするルールになる可能性
     ゲームとプレイヤーの間に軋轢が生じる可能性

ルールに従っていける、楽しめると思うから買う。→途中でストレスを感じることがありうる

合意なし=軋轢?

  • もちろん、ルールの変更が軋轢をもたらすとは限らない

 合意無しに突然予想外のルール変更や展開が現れることが、驚きとカタルシスをもたらし、楽しみの一つの形式となる場合もある

見透かす場合も

軋轢に対する反応

ルールとの軋轢が生じた時、プレイヤーが取りうる行為:

  • プレイの継続
     服従の継続
     rule-breaking
  • プレイの終了

 ※rule-breakingはプレイ(少なくともゲームへの関心)を継続する場合に行われる

rule-breakingの解釈

  • rule-breakingとは、プレイヤーが(ルールの支配圏内で)プレイを続けるために、生じた軋轢を埋めようとする行為。

 その場にいながら(いるために)その場を支配するルールに抵抗する行為と言える

会社のクレーム対応→苦情から商品の改善に向かうのと同じスタイル

抵抗戦略としてのrule-breaking

rule-breakingを抵抗戦略としてみた場合の分類

  • ルールの否定:ルールの改変、抜け道の模索
  • 脱ルール:解釈枠組みの変更、ルールの無効化
     ※それでもゲームから離れていない
  • 協調しつつ抵抗すめことも可能

ゲームをプレイすることは楽しいの? 根本的な疑問
総合的に快であっても、ちいさい不快がたくさんある。押し付けられている、自分が動かされている感じ
一方的に流されるのではなく、ムービーの合間にちょっとだけ動かさなければならないとき

4,抵抗の共闘の場としてのプレイヤー圏

経験の共有

  • これまで述べてきたこと:
     ルールに対してプレイヤーがどういう態度を取るか
  • プレイヤーが個別に獲得するわけではない
     情報や経験が共有される過程で、取るべき態度のモデルも共有される
     →どのように情報や経験、態度のモデルが共有されるか?

プレイヤーと製作者側との「裏のかき合い」
「自分ルール」の確立 ゲームから離れているわけではない→抵抗的協調

ここから考えていくこと

ゲーム vs プレイヤー個人の関係
    ↓
ゲーム vs 他者と情報を共有したプレイヤーたちの関係
 この「プレイヤーたち」をどう描くか?

攻略情報 誰かが獲得し発信している
進めなくなったとき、どうやって調べるかということの共有→google検索など
 →プレイヤーはたったひとりの孤独な存在ではない

プレイ構造の経験化

ビデオゲーム経験:プレイヤーが行う重層化されたやりとり(インタラクション)を通じて形成される経験
ビデオゲーム経験の構造を図式化(省略)

経験の共有

  • ビデオゲームは、原理的には"同一"の経験の反復/再現を提供
     →プレイの方法論の共有(理解/認知の方法論の共有を前提とする)

画面が赤くなったらやばい。音楽が変わったら大ボスだ等

→経験の方法論の共有、蓄積
 雑誌メディアなどを媒介とした「匿名的プレイヤー圏」として成立する経験共有

ゲームとは必ずしもひとりでプレイしているものではない
ひとりあそびとむれあそび 顔の見える範囲で遊ぶのではなく、顔の見えないどこの誰とも知らない人たちと経験を共有する=「匿名的プレイヤー圏」

ゲームプレイ経験の構造

  • 匿名的プレイヤー圏(雑誌メディアを媒介とする)
  • 実名的プレイヤー圏(観客・対戦相手)
     プレイヤー同士のやりとりが相互に影響しあう

ゲームシステム・ムーヴ=ゲームという体験を制作しているプレイヤー
ゲーム内世界ムーヴ=登場人物
操作ムーヴ
プログラム・ムーヴ

ここで注目する点

  • プレイヤーのやりとりの重層性
     目の前のゲームとの(重層的な)やりとりのみならず、外の他のプレイヤーとのやりとりも行われている

ここでは特に、匿名の相手との間で情報や経験の共有がなされ、「圏」が成立するということに注目していく

補足:オンラインゲームのプレイヤー圏

遊び仲間と匿名的プレイヤー圏の双方の面を持つ

  • 公式ルールに対する緩衝材の役割
     仲間内でのサブルールを決められる
     プレイヤー間の比較→ルールへの抵抗よりも他者との競争・協調に注目しやすい

rule-breakingへの意思が薄まるのではないか

  • 他方、他者との関係に束縛されることも
     ただし、今回はここまで扱うと複雑になりすぎるので、とりあえずはここまで

ルールへの抵抗とプレイヤー圏

  • ルールへの抵抗:単独では行いにくい

プレイヤー圏において情報を共有することによって可能になる戦略がある
プレイの方法論の共有→攻略、裏技、改造
 経験の方法論の共有→一般的なプレイのパターン(ジャンル化)、お約束、(コナミコマンド

抵抗戦略→プレイヤー圏

  • プレイヤー圏は最初からあるわけではない

ルールへの抵抗→情報を共有する必要
 →共有空間の成立
ルールへの抵抗が、プレイヤー圏成立のひとつの契機だったのかもしれない

プレイヤー圏→抵抗戦略

  • プレイヤー圏でのやりとりによって、それまでやろうと思わなかったルールへの抵抗を試みるようになる場合もある

プレイヤー圏でのやりとりと、プレイヤー個人の抵抗への動機づけは、ダイナミックな関係を持つ

新しい楽しみ方の発見

  • 抵抗戦略としてのrule-breaking:軋轢を解消し「よくプレイする」ことを可能にする
     →rule-breakingは与えられていなかった新しい楽しみ方をもたらしうる

新しい楽しみ方の流通

  • プレイヤー圏を通じたrule-breakingの共有
     →新しい楽しみ方の流通の可能性
  • 楽しみ方の規範の成立

クソゲーを笑い飛ばすような楽しみ方を身につける
ゲームはこう楽しむべきなんだという批判的な視点

ゲームによる先取り

  • プレイヤー圏で共有されている楽しみ方や抵抗戦略をゲームが許容・採用する場合もある

難易度の選択、複数回プレイのおまけ要素など
 →ルールを出し抜いたプレイヤーたちをルールで再び囲い込もうとする戦略と解釈することもできる

結論

  • プレイヤーはゲームのルールに対して抵抗戦略を取り、他のプレイヤーとやりとりを行う
     →新しい楽しみ方の創造・流通
     →ゲームによる囲い込み
     →さらに異なる抵抗戦略へ
  • ゲームとプレイヤー:互いに出し抜き合う普段の過程にある

ゲームプレイとは、単体のゲームだけではなくて、もっと開かれたもの
こうしても解消できない軋轢があった場合、プレイヤーはゲームをやめるのかもしれない