温泉になり損ねた銭湯にて

 日曜の昼どき、なんだか気が晴れなかったので近所のスーパー銭湯に行く。よく行く時期は週に2回は入っていたものだけれど、最近は2週に1度程度。減った理由は、まるでプールにいるような塩素の匂いがきつく、塩素は頭皮に良くないということに今さらながら気づいたから(気にしすぎだとは思うけど、お風呂から上がるときに鏡で見ると、髪の毛が妙に薄くなっている感じがするのだ)。
 頭が薄くなるのは遺伝的にいって避けがたく、とっくに諦めているのだけれど、その事実を思い知らされるのはやはり辛い。年をとれば多少は"見れる"顔つきになると信じて、思春期・青年期となんとか自信を暫定していたというのに、顔が改善しないうちに頭が薄くなってしまったら、目も当てられないじゃないか。
 ――いや、髪の毛の話はいいんだ。どうにもならないことについて思い悩んで、むやみに自分を落ち込ませるのも趣味が悪い。人生、いのちだいじに、だ。
 しかし、空いている。日曜の混み時は夕方以降で、この時間帯はこんなものなのかもしれないが、それにしたって駐車場が半分も埋まっていないというのは、厳しいんではないだろうか。露天風呂なんて、週末になればそれこそ、芋洗い状態であっても文句は言えないのに、こうもストレスもなく堪能できるというのは、やはり例の渋谷スパ爆発事故が影響しているんだろうなあ。
 実はこのスーパー銭湯、開設以来ずっと付近で温泉の掘削工事を行っていて、ついに掘り当てた! のかどうかはよくわからないがとにかく、先月下旬から天然温泉化すると予告していたんですよ。それにあわせて料金値上げするよ〜とも。どうせ天然温泉は露天風呂だけとか、そんなところだろうとは思っていたけど、塩素くさくない風呂が導入されるのなら助かるな程度には期待していたところ、渋谷の事故でしょう。すぐさま天然温泉の導入延期が告知されてね。「さらなる安全確認の為」、現在に至ると……。
 これってずいぶん不運なことですよね。あまりにも災難すぎて、かわいそうというか、個人的には同情を禁じえない。だからまあ、頭皮が気になるものの、足が伸ばせるお風呂でぼーっとするのはずいぶん心地が良いので(何もしない、ただぼーっとしていることが許される、「時間を無駄にした」と後悔せずに済むのが救われる)、気が向いたときはなるべく行くようにしています。空いているのは……心配だけど、うれしいしね。
 とはいえ、夏場に銭湯に入るのはかなり疲れる。冬場なら2時間程度余裕で過ごせたものだけれど、この時期は1時間でもつらい。お腹も空きすぎて立ち眩みの予感を覚えたので、身体を洗ってそのまま上がってしまいましたよ。しかしよく考えてみれば、1時間お風呂につかって、身体を洗って、さらに1時間お風呂に入っていた冬場の流儀では、また汗をかいてしまうし、何より塩素も身体に残ったままになって、その日1日不快な思いをしていたのは、ちょっと頭悪かったかもしれない。
 露天の板張りに仰向けになって、いくぶん機嫌のいい梅雨空を眺める。そうすると、僕の抱えている悩みとか、いかんともしがたい諸々が、僕のアレ並に、とてもちっぽけなものに思えてきますね。大気はいい。見るにしても吸うにしても、地球のうえにいる限り、それは全ての人間にとって満遍なく平等だ。