不味いラーメンを食べた

 不味いラーメンを食べた。
 美味しくないではない、美味しいのかもしれないけれど僕には合わないというのでもない、これは、はっきりと、不味い。こんなラーメンを食べたのは、僕のささやかなラーメン経験上、初めてだ。
 店名は――ホトトギスが鳴かないなら殺してしまえと言ったという、例の歴史上の人物の名を頂いている。母親の知り合いの旦那が経営しているとのことで、ひとつ「大将の顔でも拝みに行くか」というきっかけでお邪魔したのだけれど。
 魚介類系のだしを取っているらしいが、生魚特有のあの生臭さを、焦がしたうえで、豚骨系の脂成分の下層に薄く沈めたような、なんともいえないあくどい口当たりが、一口目から僕の生理的嫌悪感をビシバシ刺戟してくるのだ。これは、なんというか、ひどすぎる。
 セルフサービスのナントカ還元水は、美味しかったけどまさか、口直し用ではないだろうな……。
 チャーシューは、味付けが濃くやわらかく、単体としては決して悪くないのだが、味の濃さではひけを取らないスープとまるで合っていない。
 質の良い味噌を使っているようだが、その味わいを堪能する隙なく、魚介類系のどぎつい衝撃が味覚を占領し、太目の縮れ麺も口当たりは良いのだが、剥き出しの脂が"口当たり"などという繊細を完膚なきまでに台無しにしている。
 一言でいえば、素材がまったくチグハグなのだ。
 思うに、素材にこだわり、だし作りにこだわりすぎてしまったがために、各々の素材が協調を欠き、不自然に猪突し、全体として、一杯のラーメンとして、食する者の味覚の良識を逸脱してしまったかのようだ。
 惜しむらくは、食べてるときは「こりゃ食えたもんじゃねーぞ」と苦々しく思っていたのに、帰宅して30分ほど経ってみると、不思議と後味が良くなってきたことだ。
 喉に残っただしの旨みは確かに本物。素材の選択は決して間違っていない。問題は、この魅力をどうやって一口目からすんなりと客に味わせられるかだ。この点に、この店の将来はかかっているといえるだろう。
 がんばれ○○。僕はもう二度と行かないけれども。
 P.S.餃子もやっぱり美味しくなかった。強いニンニクの風味とそれ以外は、よくわからない"妙な"味しかしない。焼き方もダメだし、これならまだ僕の作る餃子のほうがよっぽどマシだと思ったよ……。