氷上ヒロインのかわいらしい失敗

 狩り中のちょっとしたBGM代わりに、フィギュアの中継番組をよく見ます(というか聞きます)。フィギュアといっても、氷上を踊りながら滑るほうの、フィギュアスケートね。あ、翠星石のフィギュアは、ようやく昨日箱から開けてみて、今はナマでしげしげ眺めています。素晴らしい!それはまあ別の話で。
 フィギュアスケートというと思い出すのは、昔文化放送あたりで放送していた、久川綾の番組。タイトルは忘れたけど、まあ久川綾が現役で、人気声優だったころの話ですよ。その番組内で彼女が、「フィギュアスケートは、選手が着地に失敗して転んじゃうのが辛くて、怖いから見ていられない」というような趣旨の発言をしたんです。それに対してリスナーからの反論が多数寄せられ、ちょっとした議論がわきおこったんですね。
 リスナーが言うには、「選手はそれまで懸命の練習をしてきて、本番でも真剣に演技をして、努力の末のミスなのだから、視聴者として、応援する側として、ちゃんと見なければいけない。それがマナーだ」というようなことね。それは全くその通りだなあと思う。
 不真面目な人間が、調子に乗った末のミスなら、どうでもいい。視聴者が怖いと思うはるか以上に、選手本人は怖いんだろうし、それでも勇気を振り絞って果敢に演技をしているんだから。見ていられないとか、言うのは失礼なことに違いないでしょう。
 とはいえ、見苦しいものは見苦しいんだと、当時の僕は思っていた。理屈じゃない、選手が転んでしまうと思わず目を逸らしてしまうのは仕方がないじゃないかと。それが最近になってようやく、まあ見慣れてきたというか。採点方法が変わって、以前ほどジャンプの失敗が致命的な減点にならなくなったということもあるんですが。
 着地に失敗して尻餅をついちゃうような、銀盤ヒロインたちの"はしたない"?ミスは、むしろ美しいんじゃないかと、思えるようになったのです。
 美しいというか、かわいいんですよ。たとえば、どこか近寄りがたい、気品のある優雅な優等生ヒロインが、廊下のなにもないところで足を滑らせ、転んでしまう、はだけたスカートを慌てて整えて、ばつが悪そうに「なによぉ」と上目遣いで睨んでいるようなシーンをほうふつとさせます。
 真剣な選手の真摯な失敗に、そのようないかがわしいイメージを重ねてしまうのは不謹慎に他ならないんだろうけど。華麗な演技に惚れぼれし、規定通りのジャンプ成功にガッツポーズし、あるいは着地に失敗して何事もなかったように演技を続行するかわいらしさにニヤけたりする――。
 氷上を舞い上がったときの風を切る心地は、ほとんどの人がわからない。けれど、氷上に尻餅をついたときの、冷たいような肌が焼けるような、誰にだって経験あるに違いないあの感覚。それは、クールなようでいてとても人間味のある、女の子らしいかわいらしさがこぼれ落ちる瞬間。
 多少よこしまではあるけれど、そんな親しみのある態度のほうが、見苦しいとか、思わずチャンネルを変えてしまうよりかは、なんぼかマシに違いないと、僕としては信じたいところです。