「ふしぎの国のアリス」を読み聞かせる

 ちっちゃな体の全身を真っ赤にして、まさに命がけで泣きわめく赤ちゃんと過ごす日々にもだいぶ慣れてきて、母親と妹が最近はずいぶん話しこんでいるようです。
 内容はといえば、母親の昔むかし子育て体験談披露プラス妹の旦那方ご両親に対する愚痴オンパレード、互いによくもまあそんなくだらないことを飽きもせず話し続けていられるものだと、僕は生温かい耳で大半を聞き流しているのですが。しかし遺産相続の話はさすがに早すぎ。遺言って……。
 そんな席で、どういう話の流れだったか、赤ちゃんの情操教育には早期の絵本読み聞かせが重要なのだという、それを受けて母親が僕にこう言うのです。
 「そうだ兄ちゃん、あんた絵本持ってたでしょ。ふしぎの国のアリス。アレ出しなよ」
 えほん? ふしぎの国のアリス
 それってもしや……これのことですか?




 ふしぎの国のアリス (POP WORLD)
 なぜ母親が僕のコレクションを把握しているのかとか、追求してしまうと非常におぞましいことになりそうなので、僕はもはや何も言うことができず、すごすごと献上するしかありませんでした。
 「ずいぶん現代的な絵柄ねー、なんか変だわ」
 「そう? かわいいじゃない」
 現代的な幼女趣味の最先端を逝く芸術作品だと自負しております。
 「いかにもお兄ちゃんが持ってそうな本だね」
 うるさいよ。
 「じゃ、さっそく読んであげようか」
 ついに母親が読み始めちゃいました。
 実は文字のほうは僕もまだ読んでなかったのですが、なになに、女の子が夢から覚めるシーンから始まって、唐突に魔女みたいなのに首を切られようとしているみたいです。噂には聞いてたけど、童話って本当にシュールなんですね。
 「お母さん、それ逆から読んでるよ」
 「え? あらやだ、どうりで変だと思ったわ」
 固有名詞や適切な表現が最近なかなか出てこない母親が、僕はちょっと心配です。
 ――というかですね。ぽっぷさん、ありがとう、そしてごめんなさい。
 秋葉原とらのあな本店で購入したこの「ふしぎの国のアリス」、絵本として無垢な赤ちゃんに母親が読み聞かせているのを聞くのは、眺めるのは、なぜだか非常に心が痛みます。僕がつらいんです。
 何より叔父としてすごくいけないことをしている気がして(気がするのではなくて、まごうことなき事実)、というかこの子の精神発達上取り返しのつかない悪影響を及ぼすのではないかと不安で、楽しみで、いろいろな意味で心配で、どぎまぎしてしまうのですよ。(ちなみに赤ちゃんは♀)
 まあ、僕という叔父の存在自体この子にとっては害毒以外の何者でもないんですけどね。猫よりもひどいや。
 ――我ながらいろいろ救いがたいので、強く話を変えますが、赤ちゃんが眠りに入ったときを狙って妹が、近所の書店で育児雑誌やらといっしょに「キノの旅」の最新刊を買ってきたようです。
 キノの旅 11―the Beautiful World (11) (電撃文庫 し 8-23)
 なぜ今「キノの旅」なんだろう、母親の気持ちはよくわかりません。まあ僕がこの本を読み始めたのはかく言う妹に勧められたからで、僕も?巻までしか読んでなかったので次読ませてもらおう。
 本人曰く、「ネタ切れなのかあまり面白くなくなってきた」とのこと。またキノのイラストが最近萌えっぽくなってきたのが微妙だとも。妹はアレでかなりの活字中毒で、いろんな図書館から返却催促通知が実家によく届きます。ちゃんと返せよ。
 僕が「キノの旅」で気になることといったら、これだけ。
 「あの、手榴弾好きな女の子は元気なの?」
 「うん、元気だよ。最近はいろんな表情を見せるようになってる」
 「そうか、それはよかった」
 秋葉原で何か赤ちゃん萌えグッズでもみつくろってくるかなあ……。