自らの遺伝子にかけて
母親が働いている先に、寡黙で仕事熱心な30代中頃の社員がいるという。母曰く、僕に似ているんだそうです。
特定のパートと親しくするでもない、いたって平等に社交的でない人物らしく、それ以外の"そうじゃない"社員と比較され、相対的な意味で多くのパートに支持されているようです。
娘がいたらああいう男性と仲良くなってもらいたいだなんてパート仲間は話しているくらい。けれど浮いた話はまったく聞かない。じゃあ見てくれがイマイチなの?と母に尋ねると、
「うん、ダメ」
の一言。
――ねえ母さん。
その社員に似ていると言う僕は貴方の息子なのですよ? 僕が、見てくれもそれ以外も全然ダメだというのは十分自覚しているけども。もっと、こう、自らの遺伝子にかけて譲れない価値観とかそういうのはないんですか。
まあ、その社員が母によくしてくれて(と本人は言う)、母も好感を抱いているという辺りに、息子として救いを求められなくもないんですけどね。
息子の僕を馬鹿にするのは構わない(僕だって僕を馬鹿にしている)、けれど見てくれとか髪の薄さなんてほとんど遺伝なんだし、自分が受け継いだ遺伝子くらいプライドをもって欲しいのですよ。
とはいえ、髪の薄さにプライドをもてといわれても困るように、ダメなものは事実としてダメなんだけども。