オペラを初めて観に行きました

 オペラというものを僕は今日、初めて観ました。
 高校のとき混声合唱部に所属していたという話は、何度か書いたと思うんですが、そのときの後輩がオペラに出演するらしく、チケットを安く売ってもらえるということもあり、いい機会だから観に行ったんですよ。
 後輩といっても直接の後輩ではなく、OBになってから部活動や合宿、定期演奏会に参加したとき、部を取り仕切っていた現役の部長という間柄。僕も部長をやっていたことからなんとなく彼女には親しみを感じていて、当時からしっかりした子だったので相談に乗ってあげたというようなことはなかったけれど、とりとめもなくお話をしたことがある程度には、よく覚えています。
 というか忘れられませんて。だって彼女、すごい美人だったから。
 そんな彼女が、ウィーン留学から帰国して、所属している団体の本公演に出演するというのですよ。
 ちょ、ウィーンて……。幹線沿いにあるラブホテルのことじゃないんですよお客さん。
 それで演目は、プッチーニ作「ジャンニ・スキッキ」、「カヴァレリア・ルスティカーナ」の2部構成。彼女は「ジャンニ・スキッキ」に出てくるラウレッタというお嬢さん役で。なんとヒロインなんですよ。す、すげえ。
 ちょっと、間違えないでくださいよお客さん。「ジャンニ・スキッキ」ですよ「ジャンニ・スキッキ」。ジャンのステッキでもジャンヌ・スキッキでもない、「ジャンニ・スキッキ」です。
 (というか、「ジャンヌ・スキッキ」で検索すると1000件以上出てくるというのは……まあ外国語の日本語読みに関することだから仕方ないんだろうけど)
 あの有名なプッチーニの作品とはいえ全然知らないなあと思っていたら、ラウレッタ役の彼女がソロで歌っていた曲(アリア「私のお父さん」)、どこかで聞いたことがある気がして、調べてみたら、シャンプーかなんかのCMで使われていた、気高く優美な名曲。
 そもそも僕が知るわけないんですよ。オペラなんてCDですら聴いたことがないくらいなんだから……。
 誰もが一度は耳にしたことがある、そして難易度もかなり高そうなアリアを彼女は見事な歌唱で高雅に歌い切ったのでした。
 万歳、ブラボー、ワンダフル!
 しかもあの頃よりさらに美人になっちゃって、もう――。アッ、一緒に写真撮ってもらえばよかった……。
 でもね、あのカツラは似合ってないと思うよ(というか似合う日本人はいないと思う)。
 結局のところ、オペラとしてのクオリティを云々することはできません。だって比較対象を持たないから。そもそも面白かったというべきか、疲れたというべきなのか。そんな児童レベルの感想すら、断定するのは難しい。
 ただ、日本語訳の字幕と役者の演技とを交互に見なければならないので、真面目に観ようとする限り気が抜けないというか、集中力を持続的に求められるので、幕が閉じるまでの2時間30分は本当にあっという間でした。
 それが、「ジャンニ・スキッキ」はあらすじをチェックした程度で臨んだので、あのオチについて多少面白く感じられたものの、それ以外はたいがい疲れた。それが本音です。
 コンサートであれば、聴衆は楽章や緩急に応じて自分でテンションを調整できるけれど、オペラは、音楽であると同時に演劇でもあり、物語を追う・追わないという調整はできないから、いわばテンションの"制御棒"を一部舞台に預けているといえるのかもしれません。
 まあ、そんな下駄なんぞ放っぽっといて"ぐーすか"寝息を立てていらっしゃる御仁が、僕の座っていた列の端にいらっしゃいましたがねw 
 比較ではない、僕の率直な感想としては、なんとも若々しいオペラでした。
 溌剌としていて微笑ましいけれど、バランスや安定性には欠けていたといえるかもしれません。
 オペラというと、腹の出っぱった中年男女が出演するものというイメージがあったけれど、今回主要な出演者は20代か、せいぜい30代後半までといったところではないかな。
 だからというわけではないんだろうけど、演者によって歌唱力に歴然とした差があって、堂々とオーケストラと共演し、ときに圧倒さえする素晴らしい力量の持ち主がいるかと思えば、歌唱力がイマイチでオケのクレッシェンドに飲み込まれて何を歌っているのか聴き取れなかったり、声量は大きいものの声に厚みがなくて、見せ場だというのになぜか鑑賞しているこっちが落ち着かなくなるというか、そういう演者の方もいました。
 あと、オーケストラは申し分なく、「カヴァレリア・ルスティカーナ」の演奏は聞き惚れるものがあったけれど、しかしあの合唱隊はいただけなかったかな。舞台に上がる演者でもあるので仕方がないのかもしれないけど、つい最近NHK全国学校音楽コンクール高校の部の課題曲「青春譜」の模範演奏を教育テレビで見た(聴いた)ということもあり、「高校生のほうがよっぽど上手いじゃん」とか、「むしろ俺に参加させろ、そのほうがまだマシだ」とか、一緒に鑑賞していた友人に劇後ぶちまけて苦笑を誘ったりしていました。
 大人げないなあ、我ながら……。
 それにしても。仕事から帰ってきただけなのにまるで10年も戦地にいて離れ離れだった夫がようやく帰宅したかのようなテンションで出迎える、オペラ独特の"流儀"を笑わずにいられるくらいの"耐性"をつけなければ、2度目のオペラ鑑賞はないだろうなあ。
 というより、ストーリーというか、字幕はそれほど几帳面に追わなくてもいいのかもしれません。いっそ、あらかじめ筋書きをインプットしておいて、いざ鑑賞する段になったら、字幕は今どの場面なのかということを確認する程度、ほとんどの集中力を役者の歌唱や演技、オーケストラの演奏に注ぐのが、外国語オペラの賢明な鑑賞態度のような気がしてきました。
 ま、チケット1枚ウン万もするようなゴージャスかつ本格的なオペラを鑑賞する機会なんてあるわけないけれど、今回のように彼女が出演するオペラのお誘いがまたあったときには、もっと適切に鑑賞できるよう努めることにしよう。
 美しいものを鑑賞することに関して、努力を怠ってはなりませんよね。ふふ、我ながらいいことを言う。