光の螺旋律

芽生えたばかりの瑞々しい黄緑色をしたようなその歌声に。決して歌唱力があるというわけではなく、派手さもなくて気がつかないと辺りの音色に溶け込んでしまっているような、感受性の豊さと創造性との睦まじさが、とっても心地よくて。憧れでも、見下しでもない、ごく対等の、そこにあるままの安らかさで好きになりました。
ハープシコードはあどけない妖精のささやき、風のうねるようなたわわの弦楽、地をしなやかに刻むドラムベース、空間をあたたかく震撼させるコーラス。ピアノやサンプリング音など風光明媚に充満した音色たちの現わす情景的な純朴さに、この楽曲で唯一旋律をもち、揺らぐ確かな光と想いの物語を紡ぐ(意思を持った存在としての)ボーカルが、やわらかく微笑み返す。そもそも互いの境界線なんてありはしなかったのです。
やさしく結実した幻想の合奏音楽から僕だけが取り残されているような感覚は、とても寂しくて。世界のまばゆい鼓動が悠然と僕自体に入り込んでくるかのように高鳴る間奏などは、心をいっそうときめかせて仕方がありません。
「光の螺旋律」。「螺旋」とはぜんまいを巻く装置、巻かれるは旋律、それは想いの「光」。解き放たれたように奏でられる明澄な光の感触が、僕を"忠実"にするのです。
うらぶれた雰囲気のなかにどこかしら愛しさの未練がただよう、幼き女児の弱弱しいつぶやきを、哀れむように鋭利で空疎な女声が高所で鳴く、じっとりとした叙情を織り成すアンビエント風楽曲「Atem」。
ハープシコードが壊れた瓦礫を崩すように。由々しい女声モノフォニーが辺りを凍てつかせるように。途切れ途切れに零れ落ちる「キ」「リ」「エ」の文字が無性に痛々しい「アルカナ」。
「白と赤」は苺大福のことでしょ。主旋律を意味のわからない愛くるしい言葉で無邪気に歌う慈しまれる存在、とはいえ「ポンポンパンポン」と口遊ぶコーラスは頬を膨らませて彼女にチャチを入れているようで、素直になれないそのかわいらしさに思わず吹き出してしまいます。
そして、アニメ「ローゼンメイデン・トロイメント」6話「天使 Engel」で決定的に挿入されていた「Kamp」。聖書の一説を謳うように一定のリズムと抑揚のない信仰的女声コーラスに、エキセントリックで暴力的な女声コーラスが、悪意をもって果敢に絡みついていく。女声コーラス同士による運命的な闘争とでも謂えるこの音楽は、水銀燈の心情として、あるいはただ定めに従うか、それとも運命に抗うのかという作品テーマ的な二項対立を隠喩したものなのかもしれません。
なにはともあえ、再起した水銀燈の初登場回(しかも重要なシーン)でこんなにも気合の入った音楽を鮮烈に放ってくるんだから、それはもうお察しくださいって感じですよね。